においの世界は、私たちの生活に深く関わっているにもかかわらず、学問としては長い間“周辺領域”として扱われてきました。
その理由のひとつが、においというテーマが 複数の専門分野にまたがっている という点です。
においを理解するためには、実は次の3つの領域が密接に絡み合っています。
- 嗅覚(医学・生理学)
人間の体がどのようににおいを感じ取るのかという仕組み。 - ニオイ物質(化学)
どんな分子がどのように匂いとして認識されるのかという化学的視点。 - パフューム(歴史・芸術)
香りが文化や芸術としてどのように扱われてきたかという歴史的・感性的な視点。
この3つはそれぞれ全く異なる学問体系を持ち、研究者も専門家も別々の世界にいます。
そのため、においの研究は「どの分野にも属しきれない」独特の立ち位置となり、結果として認識されにくい分野になってきたのです。
嗅覚研究は五感の中で最も遅れていた
視覚・聴覚・触覚・味覚に比べ、嗅覚の研究は長い間“謎だらけ” でした。
なぜなら、においの感じ方は非常に複雑で、科学的に解き明かすのが難しかったからです。
そんな中で、嗅覚研究に革命を起こしたのが、
リンダ・バック と リチャード・アクセル の研究です。
彼らは、
- 人間がにおいを識別する仕組み
- 嗅覚受容体がどのように働くのか
- におい分子と受容体の関係性
これらを世界で初めて明確に示し、嗅覚の謎を大きく切り開きました。
この功績により、二人は 2004年にノーベル生理学・医学賞を受賞。
そして驚くべきことに、この研究は今でも嗅覚研究の“基盤”として揺るがない存在 です。
それほどまでに画期的で、嗅覚の世界にとって決定的な一歩だったのです。
においの学びは、今ようやく本格的に広がり始めている
においの研究は、医学・化学・芸術という広い領域を横断しながら、ようやく体系化されつつあります。
そして、今回どのように「機器分析」されているのか?を知る事が出来た事は、香りの仕事をするアロマセラピスト、そして日常の中でにおいを扱うすべての人にとっても、必要な知識だと感じました。
においは目に見えないけれど、確かに存在し、私たちの感情や記憶、行動に深く影響を与えています。
その不思議な世界を理解することは、私たち自身の感性をより豊かにすることにもつながっていくはずです。

なぜ、人の嗅覚だけは“信用されにくい”のか?
においの研究が難しい理由のひとつに、人間の嗅覚そのものがとても不安定で、個人差が大きい という特徴があります。視覚や聴覚は比較的安定しているのに対し、嗅覚はさまざまな要因で大きく揺れ動きます。
その代表的な理由がこちらです。
- 個人差によるばらつき(プルースト現象)
同じ香りでも、ある人には懐かしく、別の人には不快に感じられる。
記憶や感情と強く結びつく嗅覚ならではの現象です。 - 属性の違い(性別・年齢・立場)
年齢が上がると嗅覚能力は自然と低下します。
性別や生活環境によっても感じ方は変わります。 - 体調(生理周期など)
ホルモンバランスや体調の変化が、においの感じ方に大きく影響します。 - 周囲の環境(温度・湿度・光など)
実は、人は嗅覚よりも“温度”の変化に敏感です。
温度や湿度が違うだけで、同じにおいでも強さが変わって感じられます。 - 評価者のコンディション
睡眠不足、ストレス、食事、喫煙など、日常の小さな要因でも嗅覚は簡単に変動します。
このように、嗅覚は「人によって」「その時によって」大きく変わるため、
“においの評価は信用できない” と言われてしまうのです。
同じにおいでも「強さ」と「快・不快」は別物
さらに興味深いのは、においの“強さ”と“快・不快”はまったく別の評価軸 だということ。
例えば、においに慣れた人同士であれば、「このにおいは強い」「弱い」という 臭気強度 は比較的そろってきます。
しかし、「好き」「嫌い」「心地よい」「不快」といった 快・不快の評価になると、慣れた人同士でも結果がバラバラ になります。これは、嗅覚が感情・記憶・経験と深く結びついているからこそ起こる現象です。
だからこそ、においを扱うには“科学的な視点”が欠かせない
嗅覚は人によって揺れ動き、環境にも左右され、感情とも強く結びつく。
この“あいまいさ”こそが、においの世界の魅力であり、同時に難しさでもあります。
だからこそ、人の嗅覚だけに頼らず、科学的ににおいを理解する力が現代必要 になります。
- においの仕組みを知る
- 嗅覚の特性を理解する
- 個人差を前提に評価する
- 機器分析で“見える化”する
この「科学的視点」が当たり前に使われているアロマオイル(フレグランス)、柔軟剤、シャンプー、香水、消臭剤、ルームフレグランス…。私たちの身の回りにある“香りの商品”は、すべて 人の嗅覚だけでは作られていません。
なぜなら、嗅覚は個人差が大きく、体調や環境で簡単に変わってしまうため、人の感覚だけで商品を作ると、安定した品質が保てないからです。
そのため、商品開発の現場では必ず次のようなプロセスが行われています。
- におい分子の構造を化学的に分析する
- 機器分析で香りの強さや特徴を“数値化”する
- 温度・湿度・光などの環境条件を統一して評価する
- 年齢・性別・嗅覚特性の異なるパネル(評価者)で検証する
- 快・不快の反応を心理学的に解析する
つまり、香りの商品は「科学 × 嗅覚 × 心理」の総合技術で作られている のです。
一般のアロマ商品とアロマテラピーでつくる手作り製品は、香りの捉え方がまったく違う
今、私たちが日常で見かける多くの香り商品──柔軟剤、消臭剤、芳香剤、シャンプー、香水などは、
「くさいにおい(臭い・悪臭)をどうにかしたい」という発想から生まれています。
つまり、不快なにおいを消す・隠す・上書きするための香りという視点で作られているのです。
これは、アロマテラピーが大切にしている「心と身体に働きかける香り」とはまったく異なる角度のアプローチになります。
だからこそ、アロマテラピーの視点から香りを扱う人と、一般の香り商品を扱う人では、香りの理解に大きな差が生まれます。
- 香りを“感情・記憶・心理”として扱うアロマテラピー
- 香りを“不快の解消・マスキング”として扱う一般商品
この2つは、同じ「香り」を扱っていても、目的も、考え方も、評価軸もまったく違う世界です。
感想
今回のNARDJAPAN主催 スキルアップセミナーでは、新しい角度からの【におい】を学べました。

講師の長谷先生は、大学院時代に悪臭対策の研究がうまく進まず悩んでいたとき、アロマテラピーの勉強を始め博士論文をまとめ、現在アロマテラピーの代表的な協会(JAA、NARD、AEAJ)の基本的な知識を網羅した香りの教室を開催しています。【花と香りの研究所‣https://www.nioitokaori.com/】
癒しからアロマに入った方との出会いは多いけれど、全く別の角度で研究されている香りの世界を知る長谷先生のお話は、新しい発見ばかり!
香りが好きで学び始めたのに、香りを扱うからこそ無臭でいないければ研究出来ない事や、香りの研究をする難しさ・大変さ・伝わりにくさ。そして現在講師として大学で教える子ども達との交流のお話など、講座の間に挟まれる現実に起こった「想像と違う反応への戸惑い」など、こうゆうお話がきけるのがリアルセミナーの良さと感じました。
そして、香りの研究や実験はどのように行われているのか?どんな装置があるのか?人の感覚を図る為の評価方法など、解りやすく学べました。

講座の中で一番盛り上がったのは【嗅覚検査(T&Tオルファクトメーター)】

嗅覚障害が疑われる場合、耳鼻咽喉科で嗅覚検査などでも使われるこのキットは、嗅覚感度の判定に用いられます。T&Tオルファクトメーターを用いた嗅覚検査では、5種類の基準臭が用意されています。
| 基準臭 | においの特徴 |
|---|---|
| A β-フェニルエチルアルコール | バラの花のにおい、軽くて甘いにおい |
| B メチルシクロペンテノロン | 焦げたにおい、カラメルのにおい |
| C イソ吉草酸 | 腐敗臭、古靴下のにおい、汗くさいにおい、納豆のにおい |
| D γ-ウンデカラクトン | 桃のカンヅメ、甘くて重いにおい |
| E スカトール | 糞臭、野菜くずのにおい、口臭、いやなにおい |
AとBとCは、においの特徴に一致した良いにおいでした。そして悪臭と言われるCとEは、納豆のような香り(C)と古いタンスにしまい込んだ洋服の香り(E)の様でした。ちなみにこの講座に参加する為に、福島から新幹線に乗った際に隣の女性からEの香りがして辛かった~と思い出しましたwww
最後に嗅覚の性質香りは良いにおいであれば癒しですが、悪臭はストレスになるのが嗅覚の特徴!
同じ“アロマ(香り)”でも、発信者の理解が違えば伝わり方が変わる
だからこそ、アロマテラピーの視点から香りを扱う人と、一般の香り商品を扱う人では、香りの理解に大きな差が生まれます。
- 香りを“感情・記憶・心理”として扱うアロマテラピー
- 香りを“不快の解消・マスキング”として扱う一般商品
この2つは、同じ「香り」を扱っていても、目的も、考え方も、評価軸もまったく違う世界です。
だからこそ、アロマの魔法心理メソッドを届けたい人には、香りの本質を理解し、科学的な視点を持って提案できる力 が欠かせません。
香りの仕組みを知り、嗅覚の特性を理解し、個人差や環境要因を踏まえてセラピーを提供できる人!
そしてアロマの魅力を“正しく・深く・安全に”伝えられる存在になるセラピストを増やしていきたいと感じました!
